火が消えたからもうだめだ 魔法は解けてしまう

昔の話。
せっかく20歳になったのだからとコンビニでドキドキしながらタバコを買った。

室内はタバコ禁止だったから、ベランダに出て火をつけて、見よう見まねで吸ってみる。
法律では禁止されてないのに、罪悪感でいっぱいだった。
夜の暗さに煙が青白く溶けて、本当に青白いんだなーと感心して、寒さに震えながら、むせ返りながら吸って吐く。

その時の恋人とはとっくに連絡は疎遠になっていて、1週間にメール1通くればいい方。1ヶ月に一度でも会えれば上等。相手はどうだか知らないけど、私の方は気持ちがとっくに冷めていた。先が短いのも分かっていた。別に結婚とか考えた付き合いじゃなかったし、終るならいつでもどうぞ、と思っていた。それでもそのときから半年以上、ずるずる付き合いは続いたわけだけど。
夏の日、丁度終戦記念日、突然…とは言っても何となくは分かっていたけど、終わりはやっぱり来て、あんなに冷めていたのに、終った後は一丁前に一日中泣き通した。
どうして悲しかったのだろう。
性格も価値観も合わないし、会えば苛々しっぱなしで、悩みを話しても結局は話の中身が相手の武勇伝にシフトしていて、うんざりして聞き流していたり、結局最後はこじつけのように「だからお前ももっと頑張れ、お前には努力が足りない」という締めくくり。こんな会話を何度となく繰り返していた。しまいには相手の寝落ち。愛次第でそんなのは笑って許せるのかもしれなかったけど、私にそんな大人な対応も、もっと言ってしまえば愛も、なかったのだろう。
それなのに一日中泣くなんて。確かに頑張りが足りなかったな、などと自己嫌悪に苛まれた。その8月は悪いことばかり。大風邪引いて寝込んだり、バイトで大ミスしたり、全体的に慢性的に体調が悪くなったり。

別れてもごくごくたまに、メールしたり、一度だけ会ったけど、ある日のメールに腹を立てて、もう連絡をとることはなくなった。

それから何年かは恋愛とか…って思ってて、たまに熱にうかされたみたいに馬鹿なこともしたけど、今はもうそんなことはしなくてもよくなった。
過ちは消えないけど、許してくれた人がいて、軽蔑して離れていかれるどころか、側にいてくれるということが、自分には勿体無いくらいの幸せ。今一生分の幸せを使い果たしている最中。

だから、あの終戦記念日のことは、まあいいか。別に前から特に気に病んでいたわけじゃないし。彼は行動力がある人だから、今頃バリバリやっているのだろう。私はバリバリやってないけど、まあ、いい。

20の時に覚えたタバコは、今は毎日の欠かせないアイテム。もうむせることもなくなった。大人になったんじゃない、体が壊れただけ。
ベランダで煙を吐いていて、そんなことを思ったのさ、という夢オチ的なお話。

BGM:染まるよ/チャットモンチー